絵葉書

2017年7月28日 (金)

ポストカードの誘惑10

 古い絵葉書のコレクションをご紹介するシリーズ企画も早や第10弾。「バミューダの盲目のバンジョー弾きとその家族」と題されたこの1枚も、一度見たら忘れられそうにない印象的なショットだ。

Postcard10

 発売年は不明だが、手彩色の古そうな写真ではある。ドイツで印刷されて、バミューダのドラッグ・ストアで販売された観光土産だと思われる。

 オープン・バックのバンジョーを持った黒人の年老いた大道芸人と、まだ幼い3人の子どもたち。父親(それともおじいさん?)の弾くバンジョーに合わせて、子どもたちは手にしたタンバリンや太鼓やトライアングルを叩く。どうやらバスキングの最中のようだ。家族の表情はあまり楽しそうには見えないけれど、不思議と心引かれるものがある。彼らの先祖も奴隷船で連れられてきた西アフリカのミュージシャンだったのだろうか?

 彼らの暮らしぶりが浮かんでくるような、そして演奏の音も聞こえてきそうな1枚だ。

 ちなみにこの絵葉書は、モノクロ・バージョン、別の手彩色バージョンと、少なくとも3種類はあることがわかっている。

2017年7月16日 (日)

ポストカードの誘惑9

 久々の絵葉書シリーズ。

 次はバンジョーとピエロの深い縁について掘り下げてみようかと思っていたのだけれど、あまりにも暑いもので、涼しげなネタに替えることにした。

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 手彩色ではない本物のカラー写真が登場するのは、これが初めてのはずだ。正確な発売年はわからないけれど、とりあえず第2次大戦後に作られたものではないかと思われる。

 写っているのはブラインド・ブレイクとそのグループ。ブラインド・ブレイクと言えば、1920年代にラグタイム・ギターで一世を風靡した伝説的なミュージシャンがいるけれど、こちらはまったくの別人。「カリプソのブラインド・ブレイク」と称される、やはり著名なミュージシャンだ。

 この写真は、彼らがフランチャイズにしていたナッソー(バハマ)のロイヤル・ビクトリア・ホテルの庭で撮られたもの。クレジットには「フロリダ州アイアミ・ビーチ Hannau Color Productions」とあるから米国製だろうが、実際にはバハマのホテルで売られていた観光土産用の絵葉書ではないかと思われる。ホテルのロゴも入っていることだし。

 絵葉書の解説文には、「ご存知ナッソーのブラインド・ブレイク。ロイヤル・ビクトリア・ホテルの誇る世界に名高いエキゾチック・ガーデンで撮影。カリプソ・ミュージシャンのブレイクとそのグループは、ストレート・テラス・バーと新装のガーデン・スイミング・プールで連夜演奏中」とある。

 バンジョーの原型となる楽器は、西アフリカから奴隷船に乗ってアメリカに渡ったと言われるが、その旅の途中でカリブ海の島々にも立寄ったため、ジャマイカやトリニダード・トバゴには、いまでもバンジョーを使った音楽の伝統が残っている。カリプソもその例の1つだ。

 もっとも、カリブ諸島で現在弾かれているバンジョーは、アメリカ合衆国から逆輸入されたもので、かつての原型はとどめていない。ちなみにマルティニークのカリが使うマンドリン・バンジョーは、宗主国のフランス製ではないかと思われる。

 ブラインド・ブレイクが弾いているバンジョーは、1920年代の後半に製造されたギブソンTB-1ではないか。小さな写真ではあるが、フランジに空けられたダイヤモンド・ホールが確認できる。ちなみにTB-1は、米国の大手楽器メーカーの比較的安価な普及モデルだ。

 脇を固める2人のメンバーは、アーチトップ・ギターとウッド・ベース。左のアーチトップ・ギターの正体はよくわからないが、ハーモニーやケイのような、米国の量産メーカーのモデルのような気がする。ウッド・ベースは、ブリッジの位置がやけに高いのが気になる。

2017年6月21日 (水)

ポストカードの誘惑8

 20世紀初頭に作られた魅力的な絵葉書の数々をご紹介し、あわよくば書籍の出版にまでこぎつけよう--ということで始めたこのシリーズも、早や8回め。英国製の絵葉書が多いため、どうしても英国のミュージシャン中心のラインアップになってしまうのだが、このあたりで米国のミュージシャンも取り上げておいたほうがよさそうな気がする。

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 ハンク・キーン&ヒズ・レイディオ・ギャング。典型的なヒルビリー・ファッションのグループだ。1人だけスーツを着て、でんと構えているギターのおじさんがリーダーかと思いきや、主役のハンク・キーンは脇でピアノを弾いている若いハンサム・ボーイのほうである。

 ハンク・キーンは1930年代に米東海岸のニューイングランド地方で活躍したヒルビリー・スターで、生まれはルイジアナながら、その後ニューヨーク、イリノイ、フロリダ、ケンタッキー、ボストン……と各地を転々としている。「レイディオ・ギャング」というバック・バンドの名前からも想像がつくように、30年代はラジオの仕事がメインだった。ラジオ放送のために録音した音源は現在も残っており、CD化もされている。自作の甘いカントリー(ヒルビリー)・ソングのほかに、「リケッツ・ホーンパイプ」のようなニューイングランド風のフィドル・チューンも演奏しているのが興味深い。

 この時期のヒルビリー歌手らしくジミー・ロジャースの影響も顕著で、この曲ではロジャースゆかりのブルー・ヨーデルを披露している。

 絵葉書は米国製で、切手には1934年の消印が押されていた。「連日WGQに出演中。この夏はハンク・キーンのテント劇場とラジオ・レビューをお見逃しなく」--という写真の脇の宣伝文句を見ると、バンドのプロモート用のグッズだったようだ。

 バンジョー奏者が持っているのは、B&Dのテナー・バンジョーだろう。B&Dは20年代から30年代にかけて一世を風靡したバンジョー・メーカーだった。

 スーツのおじさんのギターは、サンバースト・トップに、アジャスタブル・ブリッジ、トラピーズ・テールピース、エレベーテッド・ピックガードという仕様のようで、1932~33年頃に作られたギブソン・ニック・ルーカス・スペシャルによく似たデザインと言える。だとしたらペグヘッドに入っているはずのフルール・ド・リス(ユリの紋章)のインレイが見られないのが気になるが……。

2017年6月15日 (木)

ポストカードの誘惑7

 めげずに頑張る、絵葉書本出版促進プロジェクト第7弾。

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 この絵葉書はとくにお気に入りの1枚だ。小柄な黒人少年が、2本のバンジョーをバックに踊っている。このポーズを見ると、やはりタップ系のダンスかな? クレジットには「EARLE AND EARLE AND JIMMY」とある。おそらく両脇のバンジョー奏者がアール&アール、真ん中のダンサーがジミーだろう。正装の白人プレイヤーとダンサーの黒人少年という組み合わせが、さりげなくほっこりとくる。演奏の音まで聴こえてきそうだ。

 写真には「Earle & Earle」の直筆サインと、「Yours faithfully」というメッセージが添えられている。これは手紙の締めの常套句でもある。米英語っぽい言い回しだそうだが、絵葉書自体は英国製だ。直訳すれば「忠実なるあなたのしもべ」くらいのニュアンスだろうか? 日本語でしっくりくる文句が浮かばないのだけれど、思いっきり意訳をして「お客様は神様です」なんてのはどうかしら?^^;

 バンジョーはノーマルなオープンバックの5弦。ペグヘッドやフィンガーボードのインレイはかなり凝っている。A・C・フェアバンクス、あるいはそれを引き継いだベガあたりの上位モデルのデザインのようだ。引きの写真で細部まで確認できないため断定はしかねるものの、ここは時代性も鑑みてフェアバンクスのバンジョーに5000点! フェアバンクスのバンジョーだったら、日本にも目の色を変える人が(少しは?)いそうだ。

 残念ながらこのトリオの素性はまったくわからないのだが、これとは別にユージン・アールというバンジョー・プレイヤーの絵葉書もあって、この人がアール&アールの片割れによく似ている。苗字も同じだし、同一人物の可能性がありそうだ(ちなみにそちらの絵葉書ではチター・バンジョーを弾いている)。

 ユージン・アールの人となりは、絵葉書のキャプションである程度わかる。その紹介文には、「50ポンドを賭けて、南アフリカ、ヨハネスブルグにある野生の4頭のヌビア・ライオンの洞窟で演奏した」とある。え!?

 また、ピカデリーというロンドンのレーベルから「A Banjo Vamp / A Desert Breeze」というSPレコードを出しているのも確認できた。レーベルに「電気録音(マイクロフォンを通した録音)」とわざわざクレジットが入っているところを見ると、1920年代半ば頃の録音だろうか? 「A Banjo Vamp」は、『BANJO - FINGER TRICKS ORIGINAL RECORDINGS 1923 - 1941』といったコンピレーション・アルバムにも収録されているようだ(amazonで視聴もできる)。ここでは、フラットピックでメロディを弾きながら合間にコード伴奏も入れるスタイルで演奏している。カーター・ファミリー・ピッキングを思わせるような素朴でよいプレイだとは思うけれど、これで「ザ・バンジョー・キング」を名乗るのは(絵葉書にそう謳ってある)、ベス・L・オスマンと比較してどうなんだろう……?

2017年6月 9日 (金)

ポストカードの誘惑6

 チター・バンジョー奏者の絵葉書はたくさんあるけれど、今度は少し毛色の変わったミュージシャンをご紹介しよう。カイザー髭も凛々しいジョゼフ・ブルという人だ。

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 ばっちり正装でキメいてて、なんとなく堅物そうな印象でもあるが、見た目に違わぬクラシックの音楽家だったようで、「オペラティック・バンジョーイスト」と称されていた。なんでもバッキンガム宮殿で演奏したこともあったとか。

 1868年生まれのイングランド人。ベス・L・オスマンと同い年ながら、演奏スタイルはまったく異なる。音源を聴く限りでは、全編フラットピックを使ったトレモロ奏法で、コードにメロディを乗せるようにして弾いている。ソロのフラットピッカーとしては、かなり早い例と言えるのではないか。

 初レコーディングは、おそらく1909年。ワグナーの『タンホイザー』、ベルディの『イル・トロバトーレ』、グノーの『ファウスト』といったオペラのレパートリーから6曲録音している。

 「O Tender Moon」は、歌劇『ファウスト』から。オリー・オークリーの音源とアップ元が被っていて不本意ではあるけれど、YouTubeではこれ1曲しか見つからなかったため、ご勘弁願いたい。YouTube以外のデジタル音源もあまり存在していないようで、私が聴けたのは、この曲を含めて3曲しかない。

 もっとも3曲聴けば充分というか、オスマン、エプス、オークリーといったクラシック奏法のフィンガーピッカーたちに比べると、正直、いささか退屈なプレイだ^^; 同じフラットピッカーなら、20年代以降に登場するテナー/プレクトラム・バンジョーのプレイヤーのほうをお奨めしたい。

 この絵葉書が作られたのは、英国南イングランドSouth Norwood。発売年は不明。宛名面には「OPERA ON THE BANJO」なるキャッチ・コピーと、ブルの連絡先を記した印が押されている。おそらくは物販用、もしくは宣伝用のグッズだったのだろう。

2017年6月 6日 (火)

ポストカードの誘惑5

 絵葉書本出版促進プロジェクト第5弾。そろそろ本気を出して、皆様お待ちかね(?)のバンジョー・プレイヤ-を取り上げることにしよう。

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 オリー・オークリーは、英国を代表するバンジョー奏者で、米国のベス・L・オスマン、フレッド・ヴァン・エプスと並び称されるようなクラシック・バンジョーの巨匠と言える。

 この写真では紳士然とした姿をしているけれど、別の絵葉書ではピエロ(ただし現代のサーカスなどでおなじみのクラウン風ではなくて、より伝統的なフランスのスタイル)に扮していたりもする。このあたりの事情については、またあらためて書ければとも思うが、ピエロのコスプレは、英国にバンジョーを普及させた最大の功労者とも言うべきクリフォード・エセックスにまでさかのぼる、英国バンジョー・プレイヤーの伝統だったのだ。

 オークリーが手にしている楽器は、英国製のチター・バンジョーだ。チター・バンジョーについても書きたいことはたくさんあるのだが、ひとことでまとめれば、アメリカで生まれた5弦バンジョーが英国で独自の進化をとげた楽器--ということになる。オークリーはキャリアの初期の頃を除き、ほぼ生涯を通じてこの楽器を使い続けたという。ちなみに4弦のテナー・バンジョーは5弦バンジョーよりずっと歴史が浅く、ベガが1908年に発売した製品が最初の例だそうな。

 オークリーは早熟の天才だったようで、10歳そこそこの1890年代に早くもプロ・キャリアをスタートさせている。初レコーディングの時期もオスマンとあまり変わらない。とはいえ、1886年生まれ(87年説もあり)ということで、1868年生まれのオスマンや1878生まれのエプスよりも下の世代になる。

 オークリーのレパートリーは、当時流行のラグタイム、ダンス・チューン、ミンストレル・ショー起源のヒット曲、クラシックの小品など。慢性関節リュウマチで1930年に引退するまでの35年間に、500曲以上の録音をしたというから、その人気のほどがうかがえる。その演奏スタイルは、オスマンやエプスと同じように、当時の主流だったクラシック・ギター風の指弾きだった。

 「Whistling Rufus(口笛吹きのルーファス)」は1917年の録音。ニューヨークのバンジョー奏者、ロジャー・スプラングも60年代に同じ曲をレコーディングしているが(リード・ギターはドック・ワトソン)、このオークリーの演奏がソースだった可能性もありそうだ。そう思いたくなるくらい両者のアレンジには相通じるところが多い。特筆すべきは、3フィンガー・ロールのようなフレージングが出てくることだ。のちのブルーグラス・バンジョーを思わせるようなスタイルが、すでにこの時点で存在していたとは……。

 ところで、直筆サイン入りのこの絵葉書には版元の社名は入っていない。「写真撮影WHEELER & HADDOCK」というクレジットがあるだけだ。おそらくファンに販売するためのグッズとして、オークリー自身が製作したものではないかと思う。

2017年6月 3日 (土)

ポストカードの誘惑4

 まだまだ続く絵葉書本出版促進プロジェクト第4弾。

 絵葉書でもアーケード・カードのように有名人の肖像写真(日本風に言えばプロマイド)を扱ったものは多かった。バンジョーを手にした女優の絵葉書もそこそこネタはあるのだが、あえてマンドリンを弾くZena Dareをピックアップしてみた。

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 おそらく、「誰?」ではなくて「デア」と読むはず。英国の著名な女優兼歌手……だそうだけれど、私はこの写真を見るまで知らなかった^^; 『ピーターパン』の舞台でティンカーベルを演じたこともあったという。『ピーターパン』の初演は1904年、ロンドン・ウエスト・エンドのデューク・オブ・ヨークス劇場だったそうだが、そのときのキャストかどうかは確認できなかった。ちなみに初めてフライング(宙乗り)の演出がなされたのは、1954年のブロードウェイだそうなので、ゼナ・デア自身は、ぶら下げられて空を飛んだりはしていないと思われる。

 この絵葉書は英国製で、版元はグラスゴー&ロンドンのMILLAR & LANG, Ltd.。発売年は不明だ。アーケード・カードのピンナップ・ガールに比べると、明らかに布の量が違っているけれど、これはこれで悪くない(何の話をしてるんだ?)。……というか、20世紀初頭の女優の絵葉書なんて、たいていこんなものなのだ(例外もないではないけれど、それは書籍用にとっておくことにする)。

 手にしているマンドリンは、日本でもよく見かけるボウルバックのナポリ・スタイル。テールピースのデザインやトップのインレイの装飾など、そこそこ上級のモデルだと思われる。

 ところで、この絵葉書をピックアップする気になった最大の理由は、カラー写真になっていたことだ。これまでの例を見ていただければ一目瞭然なように、20世紀初頭には、すでにカラー印刷はごくありふれた技術になっていた。ところが、カラー写真はまだそのレベルに達していなかったようで、絵葉書の写真は基本的にモノクロだ。ただし、手彩色でカラー化したものは少なくなかった。

 中には元の写真をそこねてしまっているような粗末な例もあるのだが、この絵葉書はていねいな仕事で、上品な色使いがたいへん美しい。よく見ると、フリルのついたロングドレスのすそにイヌが寄り添っている。

2017年6月 2日 (金)

ポストカードの誘惑3

 絵葉書本出版促進プロジェクトの第3弾。少し趣を変えて、前回載せたエレン・クラップサドルの絵には興味のなさそうな層……もっとはっきり書くと、すくすくと成長してセクシーになったロリータのほうが好み^^;という層を意識してみた。

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 妖艶なおねーさんが持っているのは、オープンバックのテナー・バンジョーのようだ。装飾はわりと地味め。テナー・バンジョーでリゾネーターがついていないということは、1910年代くらいに作られた楽器だろうか?

 実はこのカードは絵葉書ではなくて、アーケード・カードに分類される。版元のExhibit Supply Companyは、シカゴ近郊にあったアミューズメント・マシンのメーカーで、遊園地やアーケード街のような人の集まる場所に設置されるゲーム機類を製造していた。この会社の大ヒット商品が、コインを入れてガチャポンするとさまざまな意匠のアーケード・カードが出てくるという自販機だったのだ。

 アーケード・カードの販売は1910年代に始まって、全盛期は30年代から40年代。とくに人気が高かったのは、野球選手、ボクサー、プロレスラーといったスポーツマンや、映画スター、それから民族衣装のネイティブ・アメリカンの写真など。もちろんセクシーなおねーさんたちのカードもたくさん売れた。

 そんなセクシーショットの1枚がこれだ。楽器はあくまでも添え物ではあるけれど、美女が楽器を持つと絵になるということで、バンジョーが用意されたものと推察される。バンジョーがおしゃれな小道具として使われているのが、この時代ならではの現象と言えそうだ。おねーさんのレトロなファッションも、時代を物語ってはいるけどね。

 ポストカードが切手を貼って郵送することを前提に作られているのに対し、アーケード・カードは純粋にコレクションの対象で、裏には何も印刷されていない。とはいえ、一部には最初からポストカードとして作られたものもあったようだ。

2017年5月31日 (水)

ポストカードの誘惑2

 すでに1870年代には存在していた絵葉書のマーケットを一気に拡大させるきっかけとなったのは、1902年に英国で施行されたちょっとした法令の改正だった。その改正は宛名面の一部を通信欄として使うことを認めるというもので、それまでは裏の通信面にしか文章を書くことができなかったのだ。

 一面丸ごと図版に使えるようになったことで、より多彩な表現が可能になり、絵葉書の人気は一気に高まった。この1902年から第1次大戦が勃発する1914年までを、最初の絵葉書ブームの時期とみなすことができる。たまたまこの期間は、ヨーロッパでバンジョーの人気が高まっていく時期とほぼ重なっていた。おかげでバンジョーを題材とした絵葉書もたくさん作られた。

 この頃に活躍したポストカード画家の1人に、日本でもいまだに多くのファンを持つ、エレン・クラップサドルがいる。クラップサドルはニューヨーク近郊の生まれながら、インターナショナル・アート出版社と契約してドイツに渡り、この地で多数の絵葉書を制作した。同社はニューヨークとベルリンにオフィスを構えていたようだが、印刷などの実質的な作業はドイツで行なっていたらしい。

 クラップサドルがとくに好んで描いたのは、エレガントでラブリーな子どもたちの姿だった。圧倒的に白人の少年少女の絵が多いのだけれど、 中には黒人の少年や少女を描いたものもある。

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 このバレンタインの絵葉書には、バンジョーを弾きながら歌う少年と、その傍らで夢見心地な顔で聴き入る少女が描かれている。小さな身体に不釣合いなサイズのバンジョーを持ち、なまった英語でラブソングを歌う少年がかわいい。いまでは黒人の楽器というイメージは薄れてしまったけれど、もともとバンジョーはアフリカから渡ってきた楽器なので、かつては黒人の文化を象徴するアイコンだった時代もあったのだ。

 インターナショナル・アート出版社から発売された、エンボス加工(絵柄に合わせて紙にプレスをかけて浮き彫り状に成形)もほどこされたおしゃれなポストカード。出版年は不明だが、やはりドイツに住んでいた頃に描かれた作品だろうか?

2017年5月30日 (火)

ポストカードの誘惑1

 ずいぶん前からなんとか本にまとめたいと思って、陰でいろいろ動いていたのだけれど、どうにもラチがあかないので、腹をくくって「禁じ手」を使うことにした。Web上で内容の一部を公開し、広く皆様のお知恵を拝借しようという寸法だ。興味を覚えた出版社の方、編集関係者の方など、もしいらっしゃったらご連絡いただけるとうれしいです。なにとぞよしなに。

 そもそもの始まりは、とある凄腕のバンジョー・プレイヤーが所有していた大量の絵葉書のコレクションを見せていただいたことだった。その多くは20世紀初頭、1900年代から1910年代にかけてのもので、ミュージシャンや芸人の肖像写真ばかりではなく、バレンタインやクリスマスのグリーティング・カード、漫画に戯画、動物や子どものイラスト、観光地のおみやげ品、広告、宣材……、さらには一般市民の記念写真をそのまま絵葉書にしたとおぼしきものまで、内容は多岐に渡っていた。

 これがすごく面白い! 当時の音楽界や芸能界の状況、楽器の歴史を知るための貴重な資料であるのはもちろんだけれど、100年前の風俗や庶民の暮らしがありありと目に浮かんでくるところもいい。それよりなにより、どの絵葉書もノスタルジックな魅力にあふれている。図版を多用した絵葉書本としてまとめたらきっと楽しいだろうなと思った。

 たとえばこんな絵葉書がある。コピーライトは1908年のようだが、1910年の消印が押されていた。

Postcard01

 窓の下に立って恋人のために演奏する男--というのは、よくある古典的な構図だけれど、ここでは男がウィスキーの樽やビールのケースを踏み台にして、ちゃっかりとキスまでしている。女性のボンネット(帽子)で肝心なところが隠れているのが奥ゆかしい……。

 ちなみに、こうした状況で男が奏でる曲はセレナーデ(小夜曲)と決まっていた。燕尾服の正装にバンジョーがミスマッチ……などと思ってはいけない。20世紀初頭のこの時代、バンジョーは充分にフォーマルな楽器だったのだ。

 版元のH.H.タンメン(おいしそうな社名!)は、コロラド州デンバーにあったみやげ物メーカーで、ネイティブ・アメリカンやロデオをテーマにしたポストカードも多数発売していた。

 ……まだまだ続く。