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2020年4月19日 (日)

アーチトップ・ギター完結編(エレクトリック革命)

 1930年代に入ると、ジャズはビッグ・バンドの時代を迎える。ざっくりとまとめれば、大編成で演奏されるアンサンブル主体のジャズである。ビッグ・バンドの大音量に対応するために、アーチトップ・ギターのボディ・サイズは、16インチ、17インチ、18インチ……と大きくなっていった。

 とはいえ、いくらサイズが増したところで、ギターの生音ではやがて限界がくる。ここで注目されたのが、すでにハワイアン・ギター(スティール・ギター)で実用化されていたギター用のピックアップだった。電気的に音を増幅すれば、ホーン・セクションやドラムスのパワーにも負けないだけの音量が得られる。

 早くも1936年には、アーチトップ・ギターにマグネット式のピックアップを組み込んだES-150というギターが、ギブソンから発売された。ギター・アンプとのセット販売で、小売価格は150ドル。定価がそのままモデル名になっている。ちなみに、「ES」は「エレクトリック・スパニッシュ・ギター」の略だ。これに対してエレクトリック・ハワイアン・ギターには「EH」で始まるモデル名がつけられた。

 ES-150を有名にしたのは、スイング・ジャズの王様、ベニー・グッドマンのバンドでギターを弾いていたチャーリー・クリスチャンである。クリスチャンはこのギターで、クラリネットやトランペットと同等に渡り合う華麗なソロを披露し、エレクトリック・ギターの可能性を世に知らしめた。このため、ES-150にセットされた初期のピックアップは、チャーリー・クリスチャン・ピックアップの名で知られるようになった。

 ES-150の成功を受けて、アーチトップ・ギターのエレクトリック化は一気に進んだ。ES-250、ES-175、ES-5……。エピフォン、グレッチ、ベガといったライバル・メーカーもこれに続いた。50年代に入ると、L-5CES、スーパー400CESなど、アーチトップ・ギターを代表する最上級モデルにもエレクトリック・バージョンが登場した。なお、「CES」の「C」は、「カッタウェイ」の略である。この頃になると、ハイポジションの演奏性を高めるために、ボディの一部をえぐってカッタウェイをつけるデザインが一般的なものになりつつあった。

L7t

 --というところで、このギターは60年代初めのギブソンだと思われるが、これがなかなかのクセモノである。まずモデル名がよくわからない。本来ボディ内部に貼られているべきラベルが見当たらないのだ。素直に考えると、L-7のエレクトリック・バージョンに当たるL-7CESということになりそうだが、この型番はギブソンには存在しないはずだ。

 デザインがよく似たES-350というモデルもあるけれど、こちらはボディの材質が一致しない。さらに言うと年代も合わない。1960年代初頭には、シン・ボディ(ボディがソリッド・ギター並みに薄い)のES-350Tしか生産されていないはずだ。こう考えてくると、L-7CのボディにES-350Tのピックアップ・システムを組み込んだカスタム・モデルということになるのだろうか?

 ともあれ、アーチトップ・ギターの進化の結果がよくわかるギターではある。スタンダードな17インチ・ボディに、シングル・カッタウェイをほどこし、ハンバッキング・ピックアップを2基載せている。今後どのように発展していくかは予断を許さないとはいえ、現時点ではこのデザインがアーチトップ・ギターの到達点と見なすこともできそうだ。

L7b1

 スプルース・トップ、カーリーメイプル・バックのボディ。fホールからのぞいた限りでは、バック材の木目は裏表で一致しているようなので、おそらくソリッドな材(単板削り出し)を使用していると思われる(ただしブックマッチではなく、左右のトラ目がよく似た異なる材を組み合わせてある)。ネックは鮮やかなカーリーメイプルの3ピース(つなぎのウォルナット材を考慮すれば実質5ピース)。ES-350とは明らかに異なる上位モデルの仕様である。

L7pu

 フロントピックアップの位置に注目。ES-350風にフィンガーボードの端から距離を置いて設置されている。これがL-5CESなら、よりネック側に寄って、フィンガーボードに隣接するようにマウントされる。

L7peg

 ボディ内部に押されたスタンプの数字をシリアルナンバーだとすると、1962年製ということになるが、いまひとつ確証はない(ヘッド裏のシリアルナンバーの刻印はリフィニッシュされて見えなくなっている)。チューニング・ペグは、2コブのキーストーン・ノブがついたクルーソン・デラックス。モデル名の刻印は2ライン。ギブソンではこのデザインのクルーソン・デラックスを1960年末から採用していたようなので、とりあえず年代は合う。 

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