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2018年4月 8日 (日)

クレズマーに関する2、3の事情

 1953年、ニューヨーク、ブルックリン生まれ。父親のジンデル・サポズニクはユダヤ教の先唱者ハズンとして、第二次大戦以前はポーランドで活躍していたが、1949年に海を渡り、ニューヨークに拠点を移した。息子は父の後を継がなかったけれど、代わりにクレズマーの権威として知られるようになり、研究書の出版、古い音源の復刻やアーカイブの構築、若いクレズマー・プレイヤーの育成……といったさまざまな活動を続けている。

 4月7日(土)の午後。本郷3丁目の東京外語大・本郷サテライトで、クレズマーの権威、ヘンリー・サポズニクさんの講演を聴いた。たんなる一研究者にとどまらず、クレズマーやオールドタイムのミュージシャン、音楽レーベルの主宰者、ワークショップのオーガナイザーなど、さまざまな顔を持っている人物だけに、たいへん興味深い内容だった。

 この日の講演の構成は、松山大学の黒田晴之教授による「東欧ユダヤ人の音楽の研究史 エンゲルからサポズニクまで」、メインとなる「ヘンリー・サポズニク氏に聞く バンド活動とアーカイヴとワークショップ」、最後に東京芸術大学非常勤講師の三代真理子さんの「コメント(実質的にはQ&A)」というものだった。

 休憩をはさんだ後半はおまちかねのミニ・ライブ。サポズニクさんのバンジョー弾き語りと、クラリネット、アコーディオンを加えたトリオでの演奏が行なわれた。

Sapoznik

 以下、個人的な覚え書き(私見も含む)。

 まずハズン(先唱者)についてだが、聖書の朗唱をするときの指導者役を務めるようだ。みんなで斉唱する際に、ハズンが最初の一節を歌い、ほかの参加者がこれに続けて歌うという、コール&レスポンスを繰り替えすものと思われる。このハズンに師事して修行する見習いは、メショイレルと呼ばれる。

 東欧のクレズマー・バンドは、主に結婚式などに呼ばれて演奏する旅回りの一座として活動していたようだ。基本インストルメンタルで、演奏する音楽のジャンルはかなり幅広かった。古くからあるワルツのような音楽はもちろん、レパートリーの中にはケイクウォークなども含まれていた。客の求めに応じて、流行の音楽も躊躇なく演奏したということだろう。デビッド・ブロムバーグさんにインタビューしたときに、「クレズマーは伝統音楽ではない」と言われた意味がなんとなくわかってきたような……。

 スポズニクさんは6歳からメショイレルとしてハズンになる修行を始めた。指導はすべて口伝で、譜面のようなものはなかった。これで耳が鍛えられたのが、後年役に立った。

 バンジョーを手にしたのはピート・シーガーの影響が大きかった。アメリカで育った第2世代のユダヤ人にとって、バンジョーは重要な楽器だったとも言う。これもフォーク・リバイバルの影響だろうか。実際に、フォーク・リバイバルの立役者となったユダヤ系のミュージシャンも多かった。

 クレズマーがポピュラーな存在だった1920年代頃に、バンジョーはメインのリズム楽器として活躍していた(その後ギターにとって代わられる)。ただし、この時期のバンジョーの主流は、伝統の5弦ではなくて4弦のテナー・バンジョーで、5弦とはまったく性格の異なる楽器である。ミニ・ライブでサポズニクさんが弾いていたのは、このテナー・バンジョーのほうだった。終演後、「5弦バンジョーも弾くんでしょ?」とたずねたところ、「私のメイン楽器は5弦バンジョー。テナー・バンジョーはクレズマーのときにだけ使う」という答えが返ってきた。おおいに納得。

 この答えからもわかるように、ミュージシャンとしてのサポズニクさんのベースとなっているのは、むしろフォークやオールドタイムのほうではないかと思われる。マイク・シーガーらの活動に触発されて南部に向かい、フィドルの大御所、トミー・ジャレルから指導を受けたりもしたという。

 ジェイ・アンガーの主宰するアショカン・フィドル・キャンプでは、オールドタイム、アイリッシュ、バルカンなどさまざまな音楽のワークショップがあったのに、ユダヤの音楽はなかった。参加者はユダヤ人ばかりなのに……と思い、クレズマーを学べるクレズ・キャンプを始めた。

 ほかにもいろいろあったけれど、こちらの頭の整理が追い付いていないため、とりあえずこんなところで……。

 終演後は近くの居酒屋でサポズニクさんを囲む懇親会があり、私も参加させていただいた。黒田先生や、三代先生にも無事ご挨拶できたし、久しぶりにお会いした方、初めてお会いした方ともいろいろ交流ができたしで、めでたい限り。サポズニクさんたちは巣鴨のホテルに泊まっているとかで、地元の私が最後までおつきあいすることになったのも、不思議なめぐりあわせと言わざるを得ない。あのあとみなさんは、当初の予定通り巣鴨の温泉施設に行かれたのだろうか?

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コメント

クローハンマー弾きでオールドタイム好きの加瀬と申します。
Hankの記事をまとめていただきありがとうございました。Hankは来日当日我が家に泊まったのですが、時差ボケと空港でのちょっとしたアクシデントで疲れ果て飲みながら寝てしまい、翌日は二人でBanjoを弾くのが忙しくこのような話は(特にクレズマー系)しませんでしたが、おかげさまで僕の理解で概ねあっていることが確認できました。
Hankはもう関東には戻ってきませんが、FaceBookでちょこちょこしゃべるでしょうからその時の参考になります。
ありがとうございました。
これを機会に、ご著書「楽器と音楽の旅」を再読します。どこかでお会いすることがありましたらお付き合いのほどよろしくお願い申し上げます。

ようこそいらっしゃいませ。

加瀬さんの演奏は何度も拝見しております。
名乗るほどの者ではありませんので、ご挨拶は遠慮させていただいておりました。
機会がありましたら、あらためてどうぞよろしくお願いします。

土曜日はBoscoさんご夫妻ともお会いできました。
Boscoさんとは両国フォークロアセンター以来でしたが、
こちらもご挨拶をしたのは今回が初めてなのでした^^;

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