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2017年8月22日 (火)

蝶々とパパとピグマリオン

 ちょっと前に書いたワーナー・パイオニア編に続く、宮原芽映ポリドール編。

 ファースト・ソロ・アルバム『Cat』(ワーナー・パイオニア 1981年)のあとは、事務所を移籍し、作詞家としての活動をはじめ、レーベルも変わり……といろいろあったようで、2枚めを出すまでにはしばらく時間がかかった。つい先日知って驚いたのだが、前の事務所を辞めるにあたっては、「1年間は表舞台に出ないように」と釘を刺されたりもしたとか。芸能界にはそんな話がフツーにあるのだな……。

 ポリドール時代の2枚のアルバムの特徴をまとめると、1)プロデューサーはムーンライダーズの岡田徹、2)テクノ、ニューウェーブ系サウンドの大胆な導入、3)ふたたびボーカル・スタイルが変化、4)作詞のみに専念して作曲はほとんどせず--といったところだろうか。音楽的にいろいろ模索していた時期だったのかもしれない。

Portfolio

 『Port・fo・lio』(ポリドール)は、1986年11月25日の発売。ご本人の解説によれば、「”ポートフォリオ”とは、”折り鞄(かばん)”を意味しています。自分の作品を入れて持ち歩く鞄というような意味です」「私自身のカタログとも言えるでしょう」--だそうな。

 露出オーバー気味のジャケット写真が象徴するように、無機質なサウンドが印象的なアルバムではある。とくに裏ジャケットのポートレートは、ほとんど機械仕掛けのオートマトン(自動人形)のようだ。ささやくようなかぼそいボーカルに、きつめのエフェクト処理をした曲が多いのも、おそらく意図した結果だろう。

 こうした試みがいちばん効果を上げているのは、最後に置かれた「地上のプラネタリウム」ではないか。ボーカルの雰囲気、テーマ、曲作り、アレンジが、ぴったりはまっている。打ち込み全開の「5色の地球儀」も面白い。

 逆に従来のキャラクタに近く違和感なく聴ける曲としては、比較的テクノ色の薄いポップな「昔みたい」、唯一自分で曲も書いた「サイドミラーに涙」、ちょっぴりジャジーな「Good Night」などが挙げられる。

 なお、プロデューサーの岡田徹は、作曲、編曲には直接タッチしていない。アレンジャーは、安部”OHJI”隆雄。作曲数も安部OHJIが5曲といちばん多い。安部OHJIは、ギター、ベース、キーボード、コンピュータ・プログラミングと演奏面でも大活躍している。

 曲ごとのクレジットはないものの、「昔みたい」のメランコリックなサックス・ソロは、バービー・ボーイズのKONTAだろう。バックグラウンド・ボーカルには小椋佳の名前もあるのだけれど、正直なところどこに入っているのかよくわからない……。

Portfoliomega

 こちらはアルバムのプロモーション用に制作されたと思われるメガミックス盤。12インチ45回転というLPサイズのレアなレコードだ。A面には「昔みたい」「サイドミラーに涙」の2曲を収録。B面はメガミックスのメドレーで、「あの頃のあなた」「めざわりな女」「月の影」「5色の地球儀」「Good Night」「地上のプラネタリウム」の6曲をまとめてある。

Mariposa

 ポリドールでの2枚め、通算3枚めのソロ・アルバム『マリーポーサ』は、1997年9月25日の発売。幻に終わったスペイン・レコーディングの名残りか、歌詞カードにはスペインの地図があしらわれている。もっともサウンド自体にスペインを感じさせるものはほとんどなく、むしろ国籍不明な印象だ。

 プロデューサーは前作に引き続いて岡田徹だが、このアルバムでは、作曲、編曲、楽器演奏(キーボードとアコーディオン)にも関わるなど、前作以上に関わりは深くなっている。

  この時期のムーンライダーズは開店休業状態で、各メンバーはソロ活動やプロデュース・ワークに専念していたようだ。ムーンライダーズの僚友、かしぶち哲郎も、本作では作曲で参加している。安部OHJIも前作に続いて、作曲、編曲、ベース、ギター、キーボードなどで、大活躍。サウンド作りも前作の延長上にあると言っていいだろう。

 内省的なラブソング、それもシビアな内容の歌が多いのが興味深い。全体の色調も暗く沈んでいて、最もダークなアルバムと言えるかも。

 「別れる理由」と「瞳の中の夜間飛行」は、作曲も宮原芽映。「別れる理由」は、ガチャガチャしたリズム・アレンジが若干気になるものの、トータルなできはいちばんではないか。とくに「別れる理由 あなたはうまく言えなかった」というフレーズにはドキリとさせられる。

 「瞳の中の夜間飛行」は、アレンジが秀逸だ。編曲は岡田徹、安部OHJIの共同作業のようだが、ある意味、宮原・岡田コンビの最高傑作かも。

 かしぶち哲郎が作曲した2曲は、どちらも異色作。「極楽蝶々」は、昭和歌謡--というより、ほとんど演歌の世界に近いかも。「アダージオで踊りたい」は、いかにもかしぶち風で、さりげなくコスモポリタンな曲だ。Dr.Kこと徳武弘文のガット・ギターも印象的ながら、なんといってもエンディングで聴けるフランス語の歌がかわいい。

 シビアな歌が並ぶ中、素のままの雰囲気でほっとさせてくれるのが、「ママに花束をパパにくちづけを」。典型的なファザコン・ソングと言えなくもないけれど……。

Gokuraku

 先行シングルとして、「極楽蝶々/瞳の中の夜間飛行」も6月5日に発売されている。「極楽蝶々」は、アルバムとは異なるシングル・バージョンだそうだが、目立った違いはない。AB面を逆にして「瞳の中の夜間飛行」をメインにしても面白かったかもしれない。

 --というところで、このポリドール時代の曲を含むコンサートが、9月15日(金)に横浜サムズアップで開催されるという。岡田徹さんと安部OHJIさんもゲストで出演の予定だそうな。私も見に行きたいところだけれど、この時期いろいろ予定が立て込んでいるからなぁ……。

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