ポストカードの誘惑2
すでに1870年代には存在していた絵葉書のマーケットを一気に拡大させるきっかけとなったのは、1902年に英国で施行されたちょっとした法令の改正だった。その改正は宛名面の一部を通信欄として使うことを認めるというもので、それまでは裏の通信面にしか文章を書くことができなかったのだ。
一面丸ごと図版に使えるようになったことで、より多彩な表現が可能になり、絵葉書の人気は一気に高まった。この1902年から第1次大戦が勃発する1914年までを、最初の絵葉書ブームの時期とみなすことができる。たまたまこの期間は、ヨーロッパでバンジョーの人気が高まっていく時期とほぼ重なっていた。おかげでバンジョーを題材とした絵葉書もたくさん作られた。
この頃に活躍したポストカード画家の1人に、日本でもいまだに多くのファンを持つ、エレン・クラップサドルがいる。クラップサドルはニューヨーク近郊の生まれながら、インターナショナル・アート出版社と契約してドイツに渡り、この地で多数の絵葉書を制作した。同社はニューヨークとベルリンにオフィスを構えていたようだが、印刷などの実質的な作業はドイツで行なっていたらしい。
クラップサドルがとくに好んで描いたのは、エレガントでラブリーな子どもたちの姿だった。圧倒的に白人の少年少女の絵が多いのだけれど、 中には黒人の少年や少女を描いたものもある。
このバレンタインの絵葉書には、バンジョーを弾きながら歌う少年と、その傍らで夢見心地な顔で聴き入る少女が描かれている。小さな身体に不釣合いなサイズのバンジョーを持ち、なまった英語でラブソングを歌う少年がかわいい。いまでは黒人の楽器というイメージは薄れてしまったけれど、もともとバンジョーはアフリカから渡ってきた楽器なので、かつては黒人の文化を象徴するアイコンだった時代もあったのだ。
インターナショナル・アート出版社から発売された、エンボス加工(絵柄に合わせて紙にプレスをかけて浮き彫り状に成形)もほどこされたおしゃれなポストカード。出版年は不明だが、やはりドイツに住んでいた頃に描かれた作品だろうか?
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