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2016年12月27日 (火)

『神々の骨』における因果律

 トリニテのサード・アルバム『神々の骨』は、ポップなアルバムなのだと断言してしまいたい。けっして構成が単純というわけではないし、よくわからない部分も多いのだけれど、1つ1つの音が明確で、とりあえず聴きやすい。耳に心地よくすんなりと入ってくる。

Trinite3

 では何がよくわからないのと言えば、作編曲を一手に荷っているピアノのshezooさんが、まずよくわからない人なのだが(誉めてます!)、それはとりあえず置いておくとして。アルバム・タイトルの意味も、ジャケットに描かれた絵の主題も、アルバム全体のコンセプトも、そしてなぜ組曲になっているのかもさっぱりわからない。あえて謎のまま放り出してあるのかと思えるほどだ。

 収録曲のタイトルを見ても、「Sky Mirror」「よじれた空間の先に見えるもの」「Apotosis」「砂漠の狐」「Dies Irae 怒りの日」「Telomere」「Lullaby」--とほとんど一貫するものはない。唯一つながりそうなのは、「Apotosis」「Telomere」という2つの生物学の用語だろうか。大学では生物学を専攻していたもので、その意味するところがどうしても気になってしまった。

 「アポトーシス」は、「細胞の自殺」「プログラミングされた細胞の死」というような意味。わかりやすい例を挙げれば、オタマジャクシがカエルになる過程で尻尾が失われる現象がそうだ。

 「テロメア」は染色体の末端にある構造で、細胞の老化に関わるとされる。老化した細胞ではテロメアが短くなることが知られているし、逆に人為的にテロメアの長さを縮めてやることで細胞は老化する。クローン羊のドリーが長生きできなかったのも、このテロメアが短くなっていたせいだとも言われる。

 生物の発生の過程では、アポトーシスはごくあたりまえに見られる現象だ。それはあらかじめDNAの中に組み込まれていると言える。ここに細胞の余命を予言するテロメアのドグマを重ね合わせると、すべてのできごとはそうなるように定められているという運命論、あるいは因果律のようなものをつい想起してしまう。

 そういえば「Dies Irae 怒りの日」のテーマも、最後の審判--すなわち終末思想だった。だとすればこのアルバムは、人間が生まれながらに抱えているそうした苦い宿命に対峙した作品なのだろうか? それにしては妙に突き抜けた明るさもあるのだけれど……。

 いやいや。全体のコンセプトや曲の意図に囚われること自体が、すでに作者の術中にはまっている証拠なのかもしれない。静謐な風景画のような「Sky Mirror」。対位法的なアレンジの室内楽風に始まり、いきなりアバンギャルドに乱れる「よじれた空間の先に見えるもの」。プログレ風の展開が面白い「Apotosis」。ピアノのリフが印象的な「砂漠の狐」。ミニマルな音に癒される「Dies Irae 怒りの日」。変拍子のリズムがスリリングな「Telomere」。ポップなメロディにほっとさせられる「Lullaby」。組曲という言葉に惑わされず、素直にそれぞれの音を受け止めるのが正解のような気もする。

 それにしても楽器の音色の美しいこと! 天空を駆け巡るバイオリン、ソフトでしなやかなクラリネット、バンド全体の骨格を支えるピアノ……。ときとしてキング・クリムゾンの曲のように聴こえるのは、パーカッション、ドラムスの小林武文のせいかもしれない。バス・クラリネットのリフがエレクトリック・ベースのラインに似ているのも聴き逃してはいけない。

  『神々の骨』サンプル音源

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