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2016年1月29日 (金)

『ベルウッドの軌跡』制作ノート(終)

 この本が刊行されたあとで三浦光紀さんとお会いしたときに、こんな話をうかがった。実は大瀧詠一さんと一度会って、2人の記憶の食い違いを刷り合わせようとしていたのだという。大瀧さんも乗り気だったそうだが、突然の死のために残念ながら実現しなかったと。

 歴史は人の数だけあると言ってもいい。見方が違えば見える景色も違ってくる。当事者同士でも微妙に記憶が食い違っていたりするものだ。三浦メモが出てきたおかげで、データの信憑性はかなり高まったとはいえ、『ベルウッドの軌跡』は、あくまでも三浦さんを通して見たベルウッドの歴史である。執筆中は、常にそのことを忘れないようにと心がけた。

 全体の構成、文章の流れに関しては、出版社や編集者から注文はなく、すべて私個人の判断に任せていただけた。その点はありがたく思っている。とはいえ、電子書籍ゆえに妥協したところもいくつかある。たとえば、本書の内容であれば縦書きの字組みのほうがふさわしいと思ったのだが、縦組ではレイアウトの自由度が下がるという。アルバム・ジャケットの写真を本文中にたくさん挿入するつもりでいたので、結局横書きでいくことにした。横組でもいろいろ制約はあったけれど、本文のレイアウトにはいろいろと注文をつけて、なんとか満足できる水準まで持っていった。

 実は表紙のデザインも、当初はまったく違っていた。最初の案を見せられたときに、あまりいいできとは思えなかったものの、スケジュール的に直している余裕はなかったし、代わりのよいアイデアもないしで、こちらはそのまま通すつもりでいたのだが、三浦さんのほうからダメ出しがきた。このままではいかんから全面的に作り直すべきだとおっしゃる。不本意ながらも妥協しようとしていた私にとって、それはまるで神の福音のようだった。

 三浦さんのビジョンは最初から明確だった。ベルウッドのロゴマークを真ん中に大きく配置する。バックは単色。よけいなものは置かない。電話を通して鮮烈なイメージが伝わってきた。そもそも、商業出版物の表紙によその会社のロゴマークを大きくフィーチャーするなんて、普通の人ならはなからできっこないとあきらめるところだが、そんな常識はこの人には関係ない。向こう見ずのバイタリティで目標に向かってひたすら突き進むだけだ。三浦さんはいまでもベルウッドを率いていた頃のままなのだと思ったら、わくわくしてきた。

 すぐに編集に連絡をとって善後策を協議する。案の定、編集サイドはいろいろたいへんだったようだが、なんとかキングレコードの許可も下りて、1週間遅れで表紙を差し替えて出版にこぎつけた。--というわけで、あの表紙はほぼ三浦さんが作ったものだと言っていい。三浦さんの仕事の現場に立ち会えたというか、いっしょに表紙作りを体験できたのは、この本の制作の中でもいちばんのハイライトだったような気もする。これを味わえただけでもやってよかったな。

 そんなこんなで、だらだらと書きつらねてきた制作ノートもとりあえずおしまい。興味を持たれた方は、ぜひディスクユニオンあたりで一読くださいませ。

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