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2013年6月 6日 (木)

勝手にライナーノート--トイメンシャオ

 トイメンシャオは、シンガーソングライターの中村十兵衛さんの歌を演奏するために結成されたユニットだった。手元にあるアルバム『君の夢の名前』(2000)を見ると、メンバーは、中村十兵衛(ギター&ボーカル)、原さとし(バンジョー)、千田佳生(ペダル・スティール・ギター)、洲崎耕一(パーカッション)となっている。その中核を担っていたのは、ボーカリストで作詞・作曲も担当する十兵衛さんと、その片腕としてサウンド面、アレンジ面をサポートしていた原さとしさんだった。

 夭折した十兵衛さんの意志を継ぐ形で、相棒だった原さんが新生トイメンシャオを再結成したのは2010年。メンバーはボーカル&バンジョーの原さんと、新たに加わったマンドリンの竹内信次さん。歌をメインにしたコンテンポラリーなユニットとしては、ギターなしのバンジョー&マンドリンという編成が珍しい。

 レパートリーは十兵衛さんが残した200曲以上あると言われる歌たち。新生トイメンシャオのメンバーは、2人とも楽器の達人なので、器楽演奏の割合がぐんと増し、歌と演奏との比率が半々に。曲によっては、4対6、3対7で器楽の割合のほうが多いものもある。歌と楽器のこの奇妙なバランスが、新生トイメンシャオの最大の特徴と言えるかもしれない。

Toimenshao

 『ライブ2011~2013 at Apia40』は、そんなトイメンシャオの新譜だ。2011年6月~2013年2月の5回のステージからピックアップした、ベスト・ライブ盤である。裸のままのCDで、ブックレットが付いていないのが寂しかったため、勝手にライナーノートを書いてみることにした。

 十兵衛さんの歌の主要なテーマの1つと言えるのが、旅のスケッチだ。そこでは日本を遠く離れた異国の日常が、淡々と語られている。それもチベットだったりイスラム諸国だったり、西欧文明とはまるで異なる土地の暮らしぶりが。

 またこれとは別に、時代物とでも呼ぶべきか、江戸時代だったり、平安時代だったり、飛鳥天平時代だったりといった、過去の日本の暮らしぶりを描いた歌も多い。空間的な距離と時間的な距離の違いはあるものの、どちらも異世界を扱っている点は変わらない。

 こうした歌の舞台設定にあわせて、バンジョーやマンドリンもさまざまな変化を見せる。ときには琵琶、ときには三味線、あるいは異国の弦楽器のように。もちろんモードを駆使した民族音楽的なアプローチも随所に聴かれる。

 --というところで、以下は型どおりに個々の曲のご紹介。

<変身>
 和旋法風のフリーなイントロがブルージーな雰囲気に変わったかと思うと、そのままマウンテン・マイナーな「Clinch Mountain Backstep」のメロディに。ひとしきり即興演奏のかけあいが続いたあと、テンポ・アップ。それからやっと歌が始まる。破綻した夫婦関係を扱ったシビアな歌詞ではあるが、男女それぞれの視点で描かれているところが面白い。

<ラビリンス>
 一転して、美しいコードの響きの内省的な歌。『君の夢の名前』にも入っていた曲だ。バンジョーのアルペジオに絡むマンドリンのフレーズが印象的。それにしても「迷子になりたい」なんて、やけに弱気だね。

<買物>
 旅のスケッチ。これも『君の夢の名前』からの再演。イントロのバンジョーの濁ったタッチの音は、ウードのような中東の弦楽器を意識したものだろうか。歌のバックのバンジョーは、左手のタッピングでコードを奏でながら、右手でドラムヘッドやアームレストを叩いて太鼓(ダラブッカ?)のような効果を出すなど大活躍。マンドリンも加わって異国情緒満点なサウンドを作り出している。

<花火>
 さわやかなニューグラス・スタイルの曲。旅のスケッチではなさそうだが、やはり実体験に基づいたと思われるリアルな花火大会の描写がすばらしい。日本語の歌い回しがこれだけニューグラスのリズムに合った例を、私はほかに知らない。個人的にはベスト・トラックの1つ。

<雪国>
 再び内省的な歌。雪の雰囲気をよく表わすメロディックなイントロが素敵。この叙情的な歌の世界は、ちょっぴり小椋佳に通じるところもあったりして?

<岡っ引き>
 江戸時代のおまわりさんをコミカルに描いた時代物。原さとしのボーカルは、まるで都都逸語りのようだ。この歌に対して、バックのリズムはあくまでもファンク。それが奇妙にはまっている。

<トイメンシャオ>
 フリーなインプロビゼーションのやりとりが、いつの間にかグリスマンの「EMD」に。そこにドスの効いたボーカルがからむ。ドーグ風のバッキングがなかったら、ほとんど演歌--というか三上寛の世界だが、このミスマッチ感が抜群に面白い。

<べんけい>
 時代物その2。平安朝末期の誰もが知っている英雄を題材にした一種のバラッド(物語歌)だ。イントロのバンジョーのトーンは、平曲琵琶の雰囲気か。琵琶法師の弾き語りといった風情の、声色を使ったボーカルも最高だ。五条大橋の牛若丸との対決から、三味線を思わせる間奏を経て、立ち往生の最期へとストーリーは急展開!

<帰化人>
 さらに時代物をもうひとつ。ポップなサウンドに乗せて語られるのは、天平時代の都作りの物語だ。最初に『君の夢の名前』に入っているのを聴いたときは、さほど気にならなかったけれど、いまのこのご時世では、「中国のみなさんありがとう」「韓国、朝鮮のみなさんありがとう」というフレーズにドキリとさせられてしまう。もっともメッセージ性が前面に出されているわけではない。希望に満ちた若き国の都作りの様子が、明るく歌われる。

<ポリスマン>
 ファンキーなリズムに乗せたバイオレンスなUSAポリスの独白。現代のトーキング・ブルース--と言いたいところだが、サウンド的にはむしろラップに近いかも。そう考えれば、間奏にフィドル・チューンの「Jerusalem Ridge」を挿入した構成も、サンプリングの手法と解釈できなくもない。

おまけ

 トイメンシャオの2人に笹部益生さん(ギター)やサポート・メンバーが加わったSome Rye Grass(侍グラス)の演奏。ケンタッキー州オーウェンズボロのブルーグラス・ルーツ&ブランチズ・フェステイバル(ROMP2012)のステージから、「花火」をブルーグラス編成で。

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