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2013年2月13日 (水)

レスポール序章(後編)

 テッド・マッカーティがレス・ポールのところへ持参したギターはどのようなものだったのか? 本人の証言を聞いてみよう。

 「最初はメイプルで試作したが、サステインが長すぎるギターができてしまった。ボディが固くなるほど弦の振動も長くなるからね。これではまずいということで、マホガニーにメイプルのトップを付けることを思いついた」「ボディも小さめにした。そしてトップにカーブを付けたのは、なんといってもレオ・フェンダーがカービング・マシンを持っていなかったからだ」[2]

 もちろんアーチトップはギブソンの伝統でもあったのだが、フェンダーには製造不可能な削り出しの技法を用い、差別化を図ろうとしたという説明が面白い。

 ウォルター・カーター著の[4]にも、オール・メイプル・ボディの弱点に関するマッカーティの発言が引用されている。「重すぎる上にサスティンが長すぎて--静かにさせておくことができなかったんだ」

 おそらくフィードバック・コントロールができない(ハウリング)状態になったという意味だろう。マホガニーとメイプルの組み合わせにすることで、このサスティンを抑えたばかりではなく、ボディの重量も軽くすることができた。まさに一石二鳥の名案だったわけだ。

 マッカーティがレス・ポールの山荘に持ち込んだギターは、このマホガニー・ボディに削り出しのメイプルトップを貼り付けた試作品だったと思われる。フィニッシュはサンバースト。そして通常のギブソン製ブランコ(トラピーズ)・テールピースが取り付けられていた[4]。

 一方、レス・ポールの記憶はマッカーティとは異なるようだ。「私は、そのギターについて、かなり大幅な要求をした。つまり、カーブドメイプル・トップのソリッドで、トラピーズ・テールピースであることが最低条件だったんだよ」[1]

 この部分は誤訳の可能性を疑いたくなるほどだ。メイプル・トップのソリッド・ボディ&ブランコ・テールピースの試作ギターをたたき台に、レス・ポールがいろいろアイデアを加えていったと考えるほうが、個人的にはすんなり腑に落ちるのだが、レス・ポールはそれを許さない。

 「色、デザイン、スケール、バインディング、弦のタイプ、コイルの巻き数、マグネット、それにエレクトロニクス…。ほとんどそう(私のアドバイス)さ。私が問題にしていたのは、とにかくサステインだった。それでメイプルを使うことにしたんだ。それに、ブリッジをスチール製にするというのも私の提案だったね。それまで、ブリッジは木製というのが常識だったんだ。だから、メタルのナットにスチールのブリッジ、ブリッジの埋め込み溝は大きくという提案をしても、なかなか分ってもらえなかった」[1]

 レス・ポールの話を信用すれば、新しいギターはほとんどレス・ポールが設計したことになってしまう。はたして、どこまで信じていいものか?

 再びテッド・マッカーティの93年の証言。
 「レスポールを1人でデザインした人間というのはいないんだ。私はボディ・シェープとトップの張り合わせ構造に関わったし、うちのエンジニアはピックアップに貢献した。それから我々(レス・ポールとマッカーティ)はおちあって、試作品について検討した。基本的に我々は、それがギブソンにふさわしい楽器として製品化されることを望んでいたんだ。たとえばネジ留め式のネックには信頼を置いていなかった。それでしっかりと接着するデザインにした。我々は1年ほどこのプロジェクトに関わった」[4]

 話をわかりやすくするために、ほぼ間違いなくレス・ポールの提案だったと言えそうなところをピックアップしてみよう。オリジナル・レスポールに採用されたブリッジ一体型のブランコ・テールピースは、レス・ポール自身によって出願された特許の図面が残っている(1952年7月9日出願、1956年3月13日認可)。そしてレス・ポールの山荘に持ち込まれた試作品には、ノーマルなギブソン製ブランコ・テールピースが付いていた。[4]には明記されていないものの、おそらく木製のアーチトップ・ギター・スタイルのブリッジも採用されていたと思われる。このブリッジとテールピースを、自らの考案した一体型ブランコ・テールピースに変更することは、レス・ポールの主要な主張の1つだったはずだ。

Tailpiece

 レス・ポールの一体型テールピースは、機能的にはアーチトップ・ギターのブリッジに近い。ボディトップに接着したりネジ留めしたりせずに、弦の張力でボディに固定される仕組みになっている。大きな改良点は、ブリッジを金属製に変えたこと。そしてテールピースと一体化することで、弦をはずしてもブリッジがズレたり、どこかへ行ってしまったりすることがなくなったことだろう。

 この一体型テールピースは、オリジナル・レスポールのほかに、フルアコのES-295やES-225T/TDにも採用された。ES-295とレス・ポールの関わりについては、[3]「THE GIBSON STORY」に書かれていたとおりだ。

 ボディ・カラーがサンバーストからゴールドトップに変わったのもレス・ポールの意向が大きかったのではないかと思われる。

 ウォルター・カーターが引用したレス・ポールの証言。
「ごく初期の頃から、私の頭の中には2つのモデルがあったんだ。1つはゴールド・カラーのモデル。それまで誰もそんなギターを持ってなかったし、ゴールドは常に品質のよさの象徴だから。もう1つはブラック。黒はタキシードのような高級感があるからね」[4]

 テッド・マッカーティはこう付け加える。
「我々はレオ(フェンダー)やそのほかの連中に、メイプルとマホガニーのコンビネーションになっていることを気づかせたくなかったんだ。それで、ピースの継ぎ目がわかりにくいような、特別なカラーリングを施した」[4]

 ゴールド・トップの採用には、メイプルの木目や継ぎ目が見えないようにする思惑もあった--というのは、いかにも当事者ならではの発言だ。いまでは誰でも知っているような事実でも、当時は隠しておきたい企業秘密だったということか。そのわりには、カッタウェイ部のバインディングの不備で、メイプルの地と継ぎ目が少し見えてしまったりしているのが、なんとも……。

 メイプル・トップの採用に関しては、両者の主張が大きく食い違っている。どちらを信用するかの判断は難しい。レス・ポールの説明はインタビューごとに微妙に異なっていたりもするため、個人的には全幅の信頼がおけない印象を持っているとだけ記しておく。

 また、ピックアップやエレクトロニクスに関しては、ギブソンが設計したものにレス・ポールからいろいろ注文をつけた可能性が高いのではないか。

 ともあれ、「あれは私ひとりでやったものだよ」([2]レス・ポール・インタビュー)というレス・ポールの発言は、さすがに言い過ぎだろう。レスポール・モデルはレス・ポールの許可なしには市場に出せない契約になっていた[1]ため、ギブソン側からは強く反論しにくいという事情もあったのかもしれない。このあたりは憶測の域を出ないけれど。

 以上のようなさまざまなデザインの変更は、マッカーティの言うように1年ほどかけて行なわれたと思われる。レス・ポールの山荘での両者の会談では、もっぱらロイヤリティ契約に関する取り決めが主要なテーマとなったようだ。5年契約にして契約が終了した時点でギブソンがロイヤリティを支払う。レス・ポールはギブソン以外の楽器を人前では弾かない[2]。レス・ポールによれば、難航したのはそのギターにギブソンのブランドをつけるかどうかという問題だった。

 「当時のギブソンは、ソリッド・ギターに対して、まだ半信半疑の状態だったよ。なにしろ、そのソリッド・ギターにギブソンの名前をつけるべきかさえ迷っていたんだ。どうしたらいいのだろう?って尋ねてきたよ。だから私は『どうして、レス・ポール・ギターってネーミングしないんだ?』って聞き返した。『これで契約が成立した』と彼(マッカーティ)は言ったよ」[1]

 レスポールというモデル名は、ソリッド・ギターに参入することにまだ抵抗のあったギブソンの立場と、自らの名前を冠したギターをギブソンから販売したいというレス・ポールの思惑が一致した結果生まれたものだったと言えるかもしれない。

 レス・ポールとギブソンの契約は、5年の期間終了後、さらに4年間延長された[2]。スタンダード以外のラインアップ--SGレスポールはもちろん、カスタム、ジュニア、スペシャルなどの設計には、レス・ポールは関与していないという[1]。

 ブラック・カラーのレスポール・カスタムに関するレス・ポールの評。
「ギブソンが勝手に作ったのさ。おまけにネックにはバインディングまでつけてね。…私が最初にオーダーして作ってもらったギターのネックにバインディングなんてなかった。だから、あのギターを初めて見た時、『そんなもの取ってしまえ。』って言ったぐらいさ。つまり、バインディングのあるないは、サウンド的には影響ないが、演奏するときには確かに問題があるんだ。弾きづらいんだね。でも彼らは『ユーザーが気に入ってるもので…。』って言った。『じゃ好きなようにしたら?』ってわけさ」[1]

 レス・ポールとギブソンの契約が切れたため、レスポールの製造は60年代に一時中断する。生産が再開されるのは68年頃のことだ。再契約が決まった70年代以降、レス・ポールが生涯を通じて愛用したのは、ロー・インピーダンス・ピックアップの付いたレスポール・レコーディングだった。

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