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2012年7月25日 (水)

『祈る人』解題

Zerobyzero

 夕暮れと闇とが交錯する逢魔が時。歩きなれているはずの街並みが、まるで見知らぬ景色のように映る。夢の中をさまよっているみたいなどうどうめぐり。怪しげな見世物小屋のほのかな灯りに誘われて近づくと、ジプシーの奏でるファナティックなバイオリンの音が、どこからともなく聴こえてきた。

 トリニテのアルバム『prayer』を聴いていたら、こんなイメージが勝手に浮かんできた。あたかもヴィスコンティやフェリーニの映画を見るような、不思議な映像の連なり。これほど非日常的な感覚が味わえる音楽は、久しぶりに聴いたような気がする。

 アルバム『prayer』は、7つのピースから構成された組曲だ。人は自らが犯した過ちの故に祈る。愛する人のために。生きている証として(shezooさんからもらった資料より要約)。2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロに触発された作品だそうだが、3.11以降の世界に生きる我々には、より身近な題材としてリアルに響く。

Baraccone 1
 印象的なトーンのピアノのイントロから、東欧のジプシーの奏でるような怪しくも情熱的なバイオリンが聴こえてくる。めくるめくサーカス小屋の幻想。「バラッコーネ」とはバラック小屋の意だろう。サーカスや見世物のために急造された粗末なテント小屋を想起させる一方で、焼け跡に建てられた仮設住宅をも連想させる。

人間が失ったものの歌
 ノスタルジックなクラリネットの調べは、まるでクレズマー・ミュージックのようだ。そしてスネアドラムの刻むステディな3拍子に乗って、天駆けるバイオリン。バラック小屋に暮らしていたあのすすけた子どもたちは、いったいどこへ行ってしまったのだろう?

Mondissimo 1
 ルナティックな狂想曲。ときにはユニゾンで。ときにはソロで。バイオリンとクラリネットの奏でるリフが印象的だ。バス・クラリネットの音色も魅力的。2つの楽器のインプロビゼーションは、やがて狂気を帯びた掛け合いに。

天上の夢
 幕間の小品と捉えるべきか。天使の見る夢をテーマにした美しい曲だが、衣の下にかすかに皮肉も覗いているような。

Mondissimo 2
 どこまでも続く螺旋階段のような悪夢。再び2ビートのリフが繰り返される。オフビートを強調した2拍子はやがてハバネラのリズムに。眠れない長い夜の焦燥感? それとも安らかな眠り?

Dies Irae 怒りの日
 グレゴリオ聖歌の「怒りの日」のモチーフは、ベルリオーズ、リスト、サラサーテ、マーラー、ラフマニノフ、ハチャトゥリアンなど、さまざまな作曲家によって取り上げられてきた。ここでは静謐な葬送曲のように淡々と演奏される。運命に逆らわず、すべてを受け入れようとする人のように。

Baraccone 2
 最後の最後でパーカッションがはじけまくる。ガムランを思わせるゴングの響きが、鬱屈した心を開放していくようだ。力強いリズムは、新たな再生を暗示しているのだろうか?

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